言語力育成の二つの方向性

 新しい学習指導要領に、各教科を通じて「言語力」を育成することが示されて特に国語以外の教科で「言語力」を育成するとはどういうことなのだろうか?という声が多く寄せられている。

 先の学習指導要領で示された「伝え合う力」の育成は、期せずして国語科だけではなく他の教科でも、学習活動としての「話し合い活動」が取り入れられ、各教科の学習が、学習者同士の相互作用の効果で広がりや深まりを見せた。

 しかしその一方で、校内研修などで、「伝え合う力」の育成を掲げ、学習内容として国語科以外の教科にも組み込もうとした結果、必要もないのに社会科や理科で、とにかく「話し合い」をさせている姿もよく見られた。

 「言葉を使う」こと自体は、昔から各教科の学習を支える基礎的な能力として考えられてきたが、それは、言葉の使い方そのものを国語科で「習得」させ、他の教科で「活用」させるという関係として今回も示唆されている。

 しかしそれ以上に、「言葉を使う」こと自体が各教科の学習を広げたり深めたりするための効果的な学習方法であり、こういった学習を設定したり支えたりする教師としての働きかけを学ぶことが重要であると考えている。

 そういったことを踏まえると以下の二つの方向性として捉えられる。

 

1 各教科の学習の中で「言語力」を育成する。国語の授業で習得した「ことばの使い方」を他の教科の学習場面のなかで活用してみる。

2「言語活動」を各教科の学習方法として効果的に位置づけ、それぞれの教科の学習に広がりや深まりを持たせる。

 

学習方法としての言語活動

 社会科や理科の学習の中でも、効果的に学習者が「ことばを使う」ことによって、社会科や理科の学習が深まりや広がりを見せることが多々ある。ただし、社会科や理科の学習の目的を達成するために選択される「学習方法」の一つとしてであるが。

 そこで、教室の学習状況と対応させて、効果的な言語活動を提案すると、次の三つのパターンは、状況の見とりも比較的容易で、学習活動をセッティングする手間もさほど無いため、国語以外の教科でも使える学習活動であろう。

 

クラスの状況 効果的であると考えられる言語活動
現在学習していることに関する情報が不足しているため、学習者の理解が深まらない場合 調べ学習によって収集した情報を、報告・説明することで情報を共有し、学習内容に対する理解を深める情報操作。
学習者の意見の多くが思いつきや思いこみであり、もっと吟味する必要があると感じられる場合 互いの考えや意見を、言葉や図表で表現し、それらをグループや学級で比べたり、結びつけたりして吟味するコミュニケーション活動。
教科の学習そのものに対する理解が浅く、日々の学習に継続性や累積性が乏しい場合 教科の学習に関する語彙を獲得させ、学習活動そのものを言葉で表現し、振り返りや自己評価を行わせる表現活動。

 

どの状況に対しても、いくつかの言語活動の組み合わせによって、解決を図ることを目的としている。しかし、様々な教科の学習の様々な学習状況に対応するためには、組み合わせて一連の学習プロセスにするとしても、コアとなる言語活動は、基本的に次の三つの活動である。

 

 上に挙げたコアとなる三つの学習活動は、潜在的にはどの教科の学習活動としても取り入れられている。しかし、国語の学習と効果的に結びつけ、学習者個々人が言葉の使い方に熟達していくことで、学習効果がより向上する。

 

学習者のことばの使い方を熟達させるために

 言葉の使い方に熟達するためには、できるだけ多様な学習場面で意識的に言葉を使わせる経験を積ませることが必要となる。それゆえに国語の授業だけではなく他の教科の学習活動においても意識的に言葉を使わせる機会を確保したいと考える。

 

 いちばん難しいのは、「意識的に」という部分である。

 「意識的に言葉を使う」ためには、自分が現在どのような方法で言葉を使っているのかと言うことを意識する必要がある。そのためには、自分の言葉の使い方を把握するための、「方法的知識」と呼ばれる知識を習得する必要がある。

例えば、下の図に示した言葉の使い方は、話し合いや発表など、話をする学習場面において自分の言葉の使い方を詳細に捉えるための方法的知識である。

 

 

また目的や相手、表現しようとする内容によって、様々な工夫を施そうとすると、以下のような工夫を方法的知識として習得する必要がある。

 

 そして、こういった「方法的知識」は、意識的に使用する経験を積み重ねていくことで、その効果や適合する状況に関する理解が深まり、より効果的に使用することが可能となっていく。

 このように考えると、まず第一歩目は、言葉の使い方を、分かりやすい言葉にして、体系的に学習者に明示することが必要である。

 話し合い活動を支える「方法的知識」は、上に示したようなものだけではなく、話型の形で示すこともできる。

 

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