教材について

  中学校3年生の教材として考えると、非常に適した学習可能性を持った教材だと思う。内容についても、学習者の常識に訴えかけ、それを崩すような内容になっているだけに、導入さえ工夫すれば、読んでいけるだろう。問題なのは、こういった少し読めば面白い教材にどのように向き合わせるか、ということになろうか。
 題名読みなどが導入としては面白いかもしれない、「生き物として生きる」という題名からは、現在の我々は生き物として生きていないじゃないかというメッセージを読み取ることができる。では学習者は生き物ではなくて何として生きているのだろうか、などと話題を持ちかけながら教材に入れてやることも大切だろう。

意見と根拠

 この教材は、筆者の考えや意見とその根拠の関係が比較的明瞭であるがゆえに、根拠をどう述べるかという学習が適している。筆者の考えや意見に対して「なぜか」と問うことで根拠を探索し関係づける読み方が可能となる。例えば、

 ①私たちが生き物として生きるべきだと考えるのはなぜか?

 に対して 根拠:人間はものと違って思い通りにならないことがあり、その不便さを受け入れながら生きていく必要があるからだ。 などと読ませて、それを足場にしながら、さらに  

 a 思い通りにならないとは具体的にどのようなことか?  

 b ものと人間との違いをどのように指摘しているか?  

と発問を重ねていくことで、文章全体の関係性を捉える学習へと展開することが可能となるだろう。

複数の情報に対して意味や価値を見出す

 この文章は例示が多い。最近の暮らしの変化から始まり、野菜を育てる話や子供を作る話と例示が続く。その後、筆者の意見に向けて抽象化が進められ、最後の段落に至る。こういった説明のラインは読解するにはコツが必要となる。それは、情報の意味や価値を筆者がどのように見出しているかという点に着目することにある。問としては「筆者はなぜこの例を用いたのか」というメタ認知的な問になる。三つの具体的な話はそれぞれに意図的に用いられている。その意図を考えさせる学習をステップにして、機械の設計図と遺伝子の比較を捉えさせ、最後の筆者の意見に向かう学習展開が効果的だと考える。

筆者の意見にどのように向き合うかを学ぶ

 この教材で提示されている筆者の意見は、比較的ゆるい。ゆるいとは何かというと、学習者でも容易に反対できると言うことだ。それくらいこの話題は様々な考え方ができる。問題なのは、勝手に自分の意見を述べさせるのではなく、きちんと筆者の意見を踏まえて自分の立場を作るということだ。
 学習の手引きにも記されているが、立場を作る際に最も簡単なのは、提示されている意見に対して、賛成か反対かという立場の作り方だ、しかし、それ以上のことをここでは学ばせたい。

①現存する様々な意見を調べ学習で教室に出させることで、自分の考えを補強させたり寄り添わせたりする。  

②賛成もしくは反対では捉えられない立場からの意見に出会わせることで、条件付きの賛成や反対という述べ方をさせてみる。