No.9 基礎・基本
一時期、公立の学校に赴くと、「基礎・基本」とは何でしょうか?とよく問われた。大学院に来ている現職教員の方からも同様の質問をよく受けた。
結論から言えば、全体が何であるかということなしで「基礎・基本」ということを主張しようとする人の多くが、ドリルなどで身につく計算力や漢字力を具体的にはイメージしているように思う。
「基礎・基本」とは、身につけさせたい学力全体に対しての「基礎・基本」であると同時に、「応用力・運用力」に対してのそれでなければならない。
論述する場合などは論の展開の中軸に上記の点があるか、ないかで大きく教育への理解が現れてくる。
現在、ようやく収束に向かってきたが、「学力低下」が社会的に指摘されていた。PISAの学力調査の結果がもたらされてから、文部科学省など公的機関が「学力低下」に取り組み始めたのでこの問題は再燃する気配を見せている。
そもそも2000年に公開された、IEA(国際教育到達度評価学会)のTIMSS(TIMSS-R 第三回国際数学・理科教育調査)の結果は、前回や前々回と変わらず優れた結果を得ている。しかしながら、香港やシンガポール、台湾など新しく参加した国に負けているため、まことしやかに学力低下が指摘され始めたように思う。
当時、分数のできない大学生がいることが大々的に報じられ、大学生の学力低下が嘆かれるという背景があったにせよ、むしろ重視しなければならなかったのは、理科嫌い、算数嫌いの増加にあったのではないか。
まあ経緯はどうあれ、「基礎・基本」とは何だろうか?という点に話を戻すと、三つくらいに絞り込むことができる。
@教科の学習内容の中で、全ての学習者に身につけておきたい内容
A全ての教科の中で、他の教科を学習するのに必要な学習内容
B学習を進めていく上で必要となる学び方や学習自体に関する知識
@に関しては、それぞれの教科の中で具体的に指摘できる程度の理解は必要だろうけど、様々な主張があって、時代によっても違ってくるし、なかなか把握するのが難しいかもしれない。
ちなみに国語科では、表現力であったり、理解力であったりした時代があったけれども、現在はコミュニケーション能力であると考えてほぼ良いと思う。
Aに関しては、歴史的に見て、「3R’s」つまり「読み、書き、算」ということになるのだろうか。年輩の先生方に基礎基本とは?と尋ねるとこういう答えがよく返ってきて辟易する時がある。知識伝達型の授業が主流であったときは、この三つは非常に基礎的であり基本的な能力であっただろうが、現在は、対話型の授業、活動型の授業が主流を占めているので、逆に言えば、情報操作力や情報収集力といった情報力、対話を進めていくためのコミュニケーション能力が位置づくのではないだろうか。
Bに関しては、学習自体の振り帰りを可能にするための知識や方法を身につけているかと言うことになる。授業は基本的に一斉授業で進められているが、ここの学習者が何を学んだかと言うことに関しては必ずしも同じではない。学習者個人個人がそれぞれの学びをより定着したものとするために、学習の振り返りが行われる。自己評価と言うよりも最近はポートフォリオになっているが・・・。でもこれが結構難しい活動で、その教科で何をどのような順序で学んでいくのかと言ったことに関する知識がなければ振り返ることはできないのである。
学習の定着に力点を置くポートフォリオ評価は学習過程の中に明確に位置づけられてきている。ポートフォリオを本当に自らの学習として運用できる力が最近では学び方の中でも重要な部分に位置づくだろうと考えている。
基礎・基本
参考図書
「習熟度別・少人数授業」導入と運営の秘訣 小学校国語―意欲と学力を高める
土上智子 出版社: 学事出版 (2005/03)
綾部市立中筋小学校 出版社: 明治図書出版 (2005/09)
明石要一 出版社: 明治図書出版 (2003/11)