No.10 治療的指導

 何年か前に、『国語教育300の基礎知識』にこういうことを書きました。治療的指導は、様々な評価論の動向を踏まえて、重視され始めた頃のことです。
 学習者のつまづきや苦手な部分を、精度の高い評価によって把握し、効果的に指導をすることを指していました。
 これに対して、さらに具体的な研究を進め、学習におけるつまづきや教科や学習内容に対する苦手意識は、単に「できない」というだけにとどまらないことが分かってきました。
 特に、学習者が苦手意識を持つに至るプロセスは、学習場面における「失敗」がある程度積み重ねられているので、一つの学習がうまくいくようになったからといって、その後の学習に対して苦手意識を持たなくなるといった単純なことではないということが分かりました。

 
苦手意識を持っている学習者の学習効果がきわめて低くなることを考えると、学習の躓き自体を解消すると共に、苦手意識を解消していく手だてが必要であるということです。

 そのためには、
 @学習の失敗経験をできるだけ積み重ねないようにする。
 A長期的な関わりの中で学習者の苦手意識を解消する指導を行う。

 @は、苦手意識を形成させない予防的な配慮です。Aに関しては、その具体的な手だてとして、「苦手」と思う対象をカウンセリングなどで具体化していくことが重要です。
 「国語は苦手だ」と思っている学習者も、いろいろと話している内に、「本を読むのはすきなのだけれど、作文を書くのが苦手だ。」ということが分かってきたりします。そうすると、国語の学習全般に抱いていた苦手意識は、作文という学習に絞り込まれ、苦手意識の対象は縮小します。
 さらに、すきな内容を足がかりにして、作文の学習に導く手だても考えられますね。
 また、「なぜ作文は苦手なのか」という苦手意識の原因のようなものを明らかにすることで、苦手意識を解消するためにどのような手だてが効果的なのかということが見えてきます。
 みんなに意見を聞かれることに不快感を覚えている子もいれば、きれいに字が書けないことで苦手だと思っている子もいますから、それぞれ苦手意識を解消するために具体的な指導は異なりますね。
 では、以下に定義や実情をまとめた原稿を置きますので併せて読んでみてください。

意義  「診断」とは元来、身体や精神の医学的診断を指す用語であったが心理学の分野では、心理活動の全てにわたって、その状態、機能、構造などを検査し、その良否、正常・異常、効率の善悪、指導・治療の有無等を具体的に判断することを指している。また「治療指導(remedial teaching)」は「矯正指導(corrective teaching)」とも呼ばれ、何らかの基礎的理解や技能の欠陥の原因を明らかにし、その原因の治療及び矯正指導を行うことを指している。
 治療指導の内容及び方法 読みや算数などにおける学習不振の治療に関する研究は、不振の原因をどう捉えるかによって二つの流れを以て進められてきた。一つは技術説である。この考え方は、学習不振は、その不振の学科内の基礎的な技術や知識をドリルすることによって、最も効果的に治療することができるという考え方である。この考え方に基づくと、その治療に効果的な「治療教材」と「治療練習」によって指導を行うことが目指される。
 これに対して興味説は学習不振は、その教科の学習に対する興味を喪失し、嫌悪を感じていることが原因であるとする説である。この考え方は、消極的態度を積極的態度に転換させるまでは、どのような治療指導も効果がないとするものであり、興味を喚起させるような教材を精選し、比較的やさしい学習を組織し、興味と成功の喜びを体験させることによって治療をしようとするものである。
 この二つの考え方は、どちらが正しいというものではなく両方の要因が複雑に関係しているのが実際であろう。そこで、学習者の学習不振の原因を正確に探り出す「診断」が必要となる。この場合、一面的でない多角的な診断が行われ、その原因に応じた治療指導が行われるべきである。
 国語科における診断・治療 国語科における診断・治療に関しては充分に確立されているとは言い難い。例えば、国語科の学習不振児に対して、治療指導を行う場合に有効な「治療教材」や「治療指導」は充分に確立されていないのが現状である。その意味では、治療用のワークブックや練習問題が開発される必要があるといえる。またそれと合わせて、診断の方法を確立していくためにも、学習者がどのようなところでつまづいているのかという点を明らかにするための観点を明らかにしていく必要がある。
 また、見る機能・聞く機能・話す機能・その他の運動機能に障害がある場合、聞く・話す・読む・書くの各領域に学習の不振やつまづきが見られる。学習不振の原因として、先に挙げた二つの原因の他、医学的治療を必要とする場合も考慮しなければならない。


治療的指導

私たちのことばをつくり出す国語教育

著者:府川源一郎

  • 出版社: 東洋館出版社 (2009/08)
  • ISBN-10: 4491025053

 

参考図書

特別支援教育に役立つ手づくり教材・教具集 (特別支援教育&遊びシリーズ)  

                            石川県立明和養護学校  出版社: 黎明書房 (2010/08)

                             

知的障害のある子への「文字・数」前の指導と教材―楽しく学べるシール貼りワーク&学習段階アセスメント表付き  

                          大高正樹  出版社: 明治図書出版 (2010/08)

         

見える形でわかりやすく―TEACCHにおける視覚的構造化と自立課題

                             服巻繁   出版社: エンパワメント研究所 (2004/09)

 



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