教材について

 物語文教材としては数多くの実践が為されてきた定番教材である。色彩表現にこだわったものやファンタジックな世界への推論に焦点を合わせたものなど、多くの学習が考案されてきた。それくらいに教材としての完成度は高く、様々なアプローチが可能となる教材である。  

 小学校四年生ということもあり、情景描写の正確な読みとりと心情表現に着目した登場人物の人物像の把握が読む力としては求められる。 また、ファンタジックな世界と現実世界との境界線のようなものをストーリーの把握を通して押さえた上で、結局この作品に描かれている出来事の意味を考えさせてみたい。

題名読みから全文通読へと展開する

 題名読みを導入で入れてみることは、この題名から展開される物語に推論することであるが、この教材の場合「白い」という表現から何を連想するかという点が学習者の反応を分けるものとなる。  

 白いぼうしから登場人物に少女が出てくるかもしれないと推論する学習者もいるし、場面設定が夏であると推論する学習者もいるだろう。私の固い頭ではそれくらいしかイメージできないがもっと多くの推論が学習者の中から出て来るに違いない。そういった学習者の推論が教材本文と深く関係してくるので、これから全文通読をする学習者にとってよい刺激になるだろう。ゆえに、題名読みを全文通読の前に置く。  

 また、全文通読をさせるに当たって、何かに意識を向けさせておくことは重要なことだが、この教材の場合、色彩表現が重要な読みとりのポイントとなるので、色にこだわった推論に重点を置くような拾い上げ方や扱い方をしておいて、学習者の読みにおける意識が色彩表現に自然に向くように仕掛けておきたい。

冒頭表現に目を向けて

 「これはレモンのにおいですか」という書き出しは学習者にとっても非常に印象的な表現である。ただし、この表現に着目することの意味は少し違う。物語文の序盤では基本的に作品の場面設定や主要な登場人物の設定が施される。そういったことを読み取るつもりで序盤の表現に向き合う習慣を付けたい。この教材の場合、表現が間接的であるため、場面設定として初夏であることや松井さんがタクシーの運転手であることなどをきちんとこの表現から推論させておきたい。  

 当然直接表現がすぐに出てくるので季節の設定に関しても松井さんの職業に関しても確認することができるのだから、やはり最初の表現にこだわりを持つしかない。  また、こういった書き出しの工夫や効果を読み手として確認し、どのような作品イメージが沸き上がるのかという点についても聞いておきたい。  

松井さんの行為の二層性を読む

 ストーリーの展開もファンタジックな世界のことも実は学習者には改めて問われない方がいいことかもしれない。なぜなら読むと分かることだからである。折角すがすがしい思いに浸っている学習者に改めて分析的な発問を仕掛けていくのはいささかとまどいを感じる。  

 しかし学習としてはポイントを設けて理解を深めたいと思うと、松井さんの「ぼうしを拾う→蝶を逃がす→夏みかんを代わりに入れる」という一連の行為は、たけの君にとっての意味と蝶にとっての意味が異なり、さらに松井さん自身の見解も存在している。この一連の行為が、登場人物それぞれに意味を持つことがこの作品のおもしろさである。しかし学習者は偏った理解を示したり、上手く整理して読みとれなかったりするので、この点をポイントにして作品のストーリーを把握する学習を構想する。