教材について

 この教材は、昔話を集めてみようという学習活動のモデルとなる教材であるが、それ以上に『三年とうげ』との比べ読みに用いる教材として考えてみることとする。物語のストーリーの展開を捉え、話のおもしろさを読み取る。

比べ読みをする際の二つのターゲット

  この二つの教材は、国は違うが、昔話であることは共通している。一方は、作家が書き直したもので、一方は再話したものであるが、この場合そういったことは意識させなくてもよいと思われる。  

 一つ目のターゲットは、この共通性から導かれる昔話としての構造やストーリー展開などを教室に出す装置として働くように思う。  二つの教材は、  

  1. 語りの口調で記述されていること。話しの終わり方なども。  
  2. 登場人物の機転によって災難を逃れて幸せになるというストーリー。  
  3. 不思議な力や言い伝えなど人知を超えた不思議が扱われていること。

 の共通点がある。こういった物語の構成要素は一つの教材をいくら読み込んでもなかなか学習者が気づかないところである。しかし、こういった昔話の魅力を支える要素について理解を持たせておくことは物語を客観的に捉えるためには必要な理解であると考えられる。  

 二つ目のターゲットは、詳細な違いから導き出される主教材、この場合「三年とうげ」の内容を教室に出す装置として働く。  二つの教材は、  

  1. 災難を助けたものが幸せになるかどうか  
  2. 不思議な力を使うか、不思議な力に苛まれるか  
  3. 病気の原因が違う 等の違いがある。

 こういった違いに自然に目を向ける働きを持つ学習だけに、その違いが読みのポイントとしてそのまま『三年とうげ』の読みの学習につながっていく事になるのではないか。

語りの口調だけに誰かに語らせてみる

 比べ読みの学習を組織しながらも、読解の学習を展開するとして、さて発展的な言語活動をどう仕掛けようかと思ったときに、その一つの例として、昔話を自分で集めることはさせるにしても、その集めたものをどう扱うかに悩む。ブックトークにすると薄くなるし、紹介文を書かせると時間がかかるし・・。  

 そこであえて音読指導を持ってくる。集めてきた昔話をそのまま音読で紹介させる。よかったところや選んだ理由は最後に少し発言させるとしても、メインは音読させることに置く。語りの口調を意識して音読すると自然と聞き手と語り手の関係で昔話を共有することができるからだ。

聞き耳ずきんに焦点化すると

 聞き耳ずきんは潜在的に自然界の超越した力が人間に働きかけていることを示唆している。これは物語の随所に出てくるテーマである。もし、この教材を主教材として扱うのならば、昔話に込められたメッセージを捉える学習としてこの点を最後のまとめの段階で考えさせる学習を構想する。  そうした場合、小鯛を助けたり、木々の声を聞いて娘を助けたりする若者の人物像には接近しておかなければならないが、それ以上に海の竜王のくれたものが、木々の苦しみを救うという自然界の因果関係には目を向けさせたい。若者が救ったものは、鯛と娘だけではなく、くすのきを初めとする庭の木々たちでもある。こういった視点のスライドによる多角的な理解を促す学習も十分仕掛けられる教材だが、時間のことを考えるとそれほど深い扱いはできないだろう。