教材について

  1. 段落のまとまりや相互の関係に気を付けながら読む。
  2. 問い-答という文章の構造に着目して読む。
  3. 接続詞に注目し、段落相互の関係を捉える。
  4. 生活の中の疑問を科学的に解決することの意味や価値を理解する。
  5. 科学的な読み物に触れ、自然に対する理解を深める習慣を身につけさせる。

日常生活の中の問いから科学的な問いへ

 「なぜ蟻は行列を作ることができるのか」という問は、実は二つの問を含んでいる。「なぜありは行列を作らなければならないのか」という必然性の問題と「どうやって蟻は行列を作ることができるのか」というメカニズムの問題である。この教材では、当然後者を扱っているのであるが、導入段階や初めの段落で問を読み取らせる際に押さえておきたいポイントである。なぜ蟻は行列を作らなければならないのかという必然性の問題に関してはいくつかの答えがあるようだ。私は昆虫研究の専門家ではないのでよく分からないのだが、アリが、社会的な昆虫だけに擬人化した推論が学習者からは出てきそうに思う。たくさんの餌を分担して運ぶためだとか、敵から身を守るためだとか、本当の答えは何か、明らかになったらお知らせするが、どの図鑑もメカニズムは書いているのだが必然性には触れていないので、よく分からないのかもしれない。  メカニズムの問題に帰ると、ものがよく見えないアリがどうして行列を作ることができるのだろうか、という問はアリの体のメカニズムを前提にして科学的な問へと高められている。「それなのに」という言葉の働きにも目を向けさせておきたいが、それ以上に、この問に対して、学習者の推論を促しておく方がこの後の読解に役立つ。  

 ある子ども相談室では、「ありは言葉を話せるのか」という問が取り上げられていて、行列を見た子どもが、言葉のやりとりで行列ができているのではないかと推論しているものである。こういった経験的な子どもたちの推論を問に対して持たせながら読みを進めていけば、疑問を共有しつつ謎に迫ることができるだろう。  

仮説を持つ

 観察学習などを理科で行ったりする際にも、仮説を持って臨む学習者は比較的少ない。こちらが発問にして問えば答えるのだが、仮説を持つこと自体自分で行うような思考の道筋は三年生ではまだ身についていないようだ。将来のことを考えると、仮説を持つことのモデルが記述されているのだから、その部分に目を向けさせておきたい。石をおいた比較実験から、地面に何か道しるべを付けているのではないか、という仮説が導かれ、その仮説に基づいてさらなる研究が進められる。 「体の仕組みを調べたのはなぜだろうか」という発問によって逆戻りに焦点化する展開も考えられるが三年生にはやや難しいのであらかじめ仮説の部分を読み込んでおく。

筆者の感動を読み取らせるのか

 この教材の授業実践などでは、よく細かな言葉に接近させ、筆者の感動を読み取ろうとする試みが見られる。これは鬼門だ。まず、この教材の筆者は、大滝哲也であり、ウィルソンではない。述べられている実験はウィルソンの行った実験や観察なのでそれに触れた記述における心情表現はウィルソンの気持ちを大滝さんが推論したものである。例えば「ふしぎなことに」という表現が三段落目にあるが、これは一体誰が不思議に思っているのか、実はよく分からない。実際に、大滝さんという意見とウィルソンという意見が出た場合どのように対処するべきなのだろうか?  学齢の低い段階での説明文教材には、このように筆者がダイレクトに内容を提供していない場合があるので、下手に筆者に迫らせようとすると収拾がつかなくなる場合がある。