教材について

 この教材は長い教材だ。中学校の完成段階にある学習者には、こういった長い文章を読み解く経験が必要である。大きく三つの段落に分かれており、前半は松について、後半は杉について、最後は私たちの生活のあり方と森林保全について筆者の考えが述べられている。
 こういった大きな内容の切れ目を意識させるためには題名読みなどから、松と杉のどのような点が比較されているかを読み取ることを学習者のターゲットに置き、彼らが読み取ったことをもとにしてさらに筆者に表現の工夫や意図に迫っていく学習展開を構想したい。

比較する目的を押さえる

 この教材は、題名から見てとれるように、「松」と「杉」の比較が主な文章の内容である。比較の観点や導かれている考えを読み取ることは重要であるが、そういった学習をより分かりやすくするために、比較の目的は何か、ということを先に押さえ置く展開も考えられる。
 書き手の側から言えば、ひっくり返したような理解の道筋になるのだが、松と杉の比較から導かれる筆者の意見は、我々の生活のあり方と森林保全とを深く関係付けながら、これからの森林保全について考えていかなければならない。ということにある。この意見を具体的に説明し補強するために、大きく二つの例が比較して述べられている、という事を確認することで、比較の観点がどうしてこのように立てられているのかという点や、そもそも「松」と「杉」をなぜ比較したのかという点など、「比較」して説明することの意味や構造が見えやすくなる。

比較そのものの理解

 前半部分の「松」について述べられている部分と後半の「杉」について述べられている部分は、基本的に構成としては同じである。

 ①人間との関係を歴史的に述べた部分
 ②人間にとっての利点と欠点を述べた部分
 ③現在の状況

 であろう。この三点から前半で説明されている内容と後半で説明されている内容を対比させてまとめる学習が粛々と行われてもいいと思うのだが、最後のまとめ方によっては失敗に終わる可能性も高い。
 比較の構造を見ると教師は、こういった整理を求めやすいが、それは両者の差異性を捉えさせる必要がある場合と両者の共通性を発見させる必要がある場合とに分かれているので、この点を考慮しないでまとめにはいるとどうしても差異性にのみ執着させてしまう。差異性に焦点を当てる場合は、比較されている両者の関係が主ー従の関係の場合であり、比較は主の特徴を明らかにするために行われている説明の方法であるから、当然差異性に焦点を当てて主の特徴を捉えさせることが学習のねらいになる。
 しかしこの文章の場合、松と杉は時間の推移によって結ばれており、どちらかの特徴を明らかにするというよりも、現在、つまり松も杉も育てることが難しくなっている中で、この二つの木材が日本人の生活と深く結びついてきたことを説明しようとするものであるから、むしろ共通性に焦点化させていく読みとりを仕掛けていく必要があるのである。

松から杉へ至る道筋と現在の状況

 この教材は、決して過去の木材と人間との関係を賛美するところで終わる教材ではない。確かに本文のほとんどが過去の日本人の生活と二つの木材との関係を述べているが、最後に付された現在の状況との関係付けや相対化がねらいである。
 だから私などはあえてこの教材の読みとりを初読~結論の読解というラインで始めて最後の「現在」を強く意識させながら松と杉の歴史的な説明に入っていく学習を構想したくなるのである。読むのが苦手な子が多いクラスだと、自分たちの経験的な知識を賦活させるようなおしゃべりからはいることもあるが、それも「現在」を強く意識させてから本文にはいることをねらうがゆえである。
 松と杉の相対化から見えてくる共通性は、これら木材の育て方や保全の方法と私たち日本人の生活が深く結びついていることであり、その点が読みとれていれば、まずは足場ができたと考える。さらに最後の結論の理解は松も杉もいや木材そのものが必要性や利点を失って放置されている現状に焦点を当てながら読み取らせるために、現在の森林の保全状況や産業の状況などを少し補わせなければならないなあと考えたりする。この点をもう少し書いてくれているといいのだが。
 ゆえにこの教材は、比較の構造を前面に押し出しながらも、肝心な部分は時系列による推移を読み取りながら時間軸で現在を捉え返す構成を持つものであることを忘れてはならない。