教材について

  思春期にさしかかる頃の少年、少女は、自分の内側からこみ上げてくる変化のエネルギーを理屈ではなく、もっと直感的に感じる。誰かに変えられていくのではなく、自らの内なる何かが、自らに変化を強いているのである。それは、最初はかすかな「響き」の発見から始まる。その「響き」が次第に強くなっていくにつれて、驚きや痛みを伴ったリアルな「響き」へと増幅されていく。この秘められた出来事はやがて、隠しきれないくらいに溢れくる「響き」となって、やがて「わたし」自身をも壊していくのである。
 この思春期特有の荒々しい肉体的・精神的変容を「響き」としてとらえ、それに対するとまどいや恐れ、痛みといった心の動きを余すところなくとらえている。さらに、その「響き」によって、自らが割れてしまうことに対して恐れを抱くのではなく、さらに自分を響かせる未知なる山との出会いに期待を膨らませることのできる健やかな若者の精神の強さが本作品の主題であろう。

聞き比べる

 詩教材との出会わせ方といえば、おおよそ三つの方法があります。詩人の認識がいかに我々の認識とは異なって、斬新で深みのあるものかを、詩との出会いの中で何となくでも感じとって欲しいなあと想うと、教材との出会わせ方には心を砕きます。 この教材では、木村さんの内なる心の響きを感じとる感覚の鋭さに気づき、生徒自らの中の響きに耳を澄ませることが重要ではないでしょうか。 文字から出会う詩もあれば、音から出会う詩もあります。じっくりと目で文字を追いながら味わう詩もあれば、自分で何度も声に出して味わう詩もあります。 今回三省堂の教科書で提案しているのは、「聞きくらべる」という詩の学習方法です。これに関しては、三省堂のブックレットに詳細な考えを記述しています。

 授業を考える際にポイントになるのは、「いつ聞きくらべさせるのか」という点でしょう。

 ①導入段階、教材との出会いを音から入る。
 ②展開の段階、教材の読み深まりの観点を導くために使う。
 ③まとめの段階、生徒たちの読みを反映させた音読を交流することで読みの交流を図る。

  どの段階でこの学習活動を取り入れるのかは、先生方の構想する授業の目標との関係や学習者の状況によって決定されるべきだと想いますが、どの段階に入れてもとてもおもしろそうな学習活動にあると思います。