教材について

  この教材を論理的に扱うとすれば、前半部分にある二つの調査を筆者がどのように展開しているかに着目すべき。 これは指導書にも書いたのだけれども、筆者は二つの調査から、自分なりの考えを述べている。しかし調査結果から直接結びつけるのではなく、推論を正当化するための事実を挙げながら自分の考えを導いている。この展開は結構注目して丁寧に読み取らせる学習を組織しておくと、後々、意見文指導の時に、論理の展開モデルとして使えると思います。 また、いろんな調べ学習をしたことをまとめさせるときなんかも、調べたことをまとめて、自分なりの意見を書かせるまでの道筋が学習できる。

表現力育成のためにオノマトペの効果を

 内容面に関しては、オノマトペの具体的なはたらきと表現した場合の効果を理解させることに重点を置きたい。指導書には、実際にオノマトペを使って食感を伝え合う学習を書きましたが、たぶん導入段階か、発展段階のどちらかに自分で食感のオノマトペを使ってみる活動を入れ、学習者自身の言語生活の中にオノマトペの使用効果などを理解した上でそれを用いる習慣を付けさせるにはちょうど良い単元。
 論理的な表現力だけでなく、こういった直観的で感覚的な内容をどのように表現すれば効果的に伝達できるのかということについて考えさせる良い機会になります。

導入をどうするのか?

 指導書に書いた学習展開は、極めて標準的なものなので、入手された方は参考にしてください。 ここでは、ノリの悪いクラス向けに少し活動からはいる展開を構想します。ノリの悪いクラスの場合、まず説明文系は読ませるところからはいるということは考えない。一気にやな感じになって展開するのがしんどくなるから・・・。
 かつてはマンガから入る事を構想していた時期があったけれど、『美味しんぼ』のブームもかなり前に下火になって、バブルも崩壊してそんなに美食生活が送れる学習者もいないし、何より教員がそういう生活とはほど遠い・・・。それでも、なんとか面白い導入を構想しようとすると攻め口は「お菓子」か「ジュース」か。とにかく学習者が日常好んで食するジャンクフードの中から、特異な食感のものを探す。なんだろうなあ。学生とはまた少し違うし。 相互コミュニケーションだと、「な。あれあれ。」といって変に文字化せずに共感しちゃうからだめ。誰か文字化しないと行けない相手をリアルに設定する。親とか先生とか大人がいい。(世代間格差の問題が本文にあるから道をつけておきたいし。)
 あとは班活動で、文字化する作業と効果的に伝達する作業を進める。オノマトペを使わずに説明させることは結構効果があるし思考作業としては面白い。
 もう一つは、最近のCMを使う導入か。最近チョコレートにしても、アイスクリームにしてもやたらと食感を強調したものが多い。やっぱお菓子のCMのターゲットがオノマトペ世代だからか?若年層は特にオノマトペに弱い・・。(昔シルク感覚のチョコレートがあったが、大人向けだったなあ。)まあ、面白がりそうなCMを探して、録画し映像で導入する。話しで入ってイメージを持たせてもあんまり効果は期待できない。今は教材もメディアミックスの時代だから、抵抗のある人はがんばって勉強する機会。  ビデオは教材探しにはかかせない一品になってきた。もっとできる人は、パワーポイントで図と一緒に見せることもできる。勉強する雰囲気を崩さなくて良いと思う。
 あとは、オノマトペについてすきなように持っていき教材につなぐ。その間が分からない人はオーソドックスな展開をしっかり組織する力量の段階だから無理はしない。でも、こっちの方が面白いと思う。オノマトペそのものから経験則に流すと大変なオノマトペが出てきて収拾できない事もあるので要注意。(エロだとかグロだとか出ると本当に困る)

ばらして結ぶ

 論理の構造は、教材分析の段階から結構視覚化することに専念するようにしている。論理は形だから、視覚化できない場合は、複雑すぎて構造として意味をなしていないと判断している。文章を文章のママで形としてとらえようとさせるからさっぱり分からなくなってしまうので、単純化できなければ、相互の結びつきや関係性にまで考えが及ばないのは誰でものこと。    

 調査  → 事実 → 推論(意見) という構造は前半の二つの調査のメイン。  

 これを読み解かなければ、この教材で学習して欲しいことが学習者の表現力として身につかない。調査の結果から、「日本語の食感に関するオノマトペの量の多さ」と「オノマトペ使用における世代間格差」を導き出すのは小学校レベルの学習。キモは、その間にある思考の道筋。「事実→推論」が学習者の思考の道筋として習得され、実際に使えるようになってくれれば、大学ではもっと重要なことから教え始められる。  順番通り読ませれば上のようなポイントになるが、順番を逆行して読ませれば「推論(意見)←根拠」という関係が見えてくる。こうすると、意見を作る際に、どうすれば客観的で確かな意見が生成できるのかという一つの方法を学ぶことになるのでより効果が得られる。

筆者の立場

 問題は、授業をどうたかめるかという落とし所。筆者が最後に述べている意見  

①食感のオノマトペは食品開発の面から今後注目されるだろう。 
②食感のオノマトペは極めて繊細な食感を表現するために効果的である。  

 目を付けるのは特に①。筆者は調理学の研究家という立場からオノマトペを見ている。これがこの文章のおもしろさの一つ。研究領域の越境、セクショナリズムを壊す。なんて事は一時期盛んに言われたけど、若い研究者は当たり前のようにしていること。今面白い研究のほとんどが越境型だと思う。②の意見は割と本文全体をまとめるためにも言語学よりの意見だけど、これまでのアプローチが調理学だから結構根拠が言語学的ではないなあと感じるが、学習者にはそこまでは無理。そこで①から筆者のことに導いていき、「立場」と「意見」の関係を目で分かるように図示するか。 立場のない意見文は意見文ではないのだという強い主張から、意見文を書く際に意識することの一つとしてプリンティングしておく。