教材について

 障害者や高齢者と共存する社会とは一体どのようなものであり、そこで生きていく中学生にとって、どのように向き合っていけばよいのかということを考えさせる機会が必要であると考えている。思っている以上に急速に社会の高齢化が進み、さまざまな既存の制度が新しく作り替えられようとしている現在、障害者や高齢者と共存する社会を新しく作っていくのは我々教師ではなくもっと若い人たちだと思う。
 内容面はそういった社会認識を持つ機会として捉えたとして、この教材は論説文としてもおもしろい学習ポイントをいくつも持っている。端的に言えば、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」と「ユニバーサルな心」との関係性を読み解いていくこともおもしろい課題だろう。

定義を読み解く

  この教材の冒頭で「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」の定義が行われ、両者を「発展」という関係でつないでいる。これを論理図式化すると以下のようになる。

 「バリアフリー」も「ユニバーサルデザイン」もこの教材の「ユニバーサルな心」を理解するためには重要なキー概念である。出発点として、この二つの関係と定義の内実を押さえておくと、以後の読解で学習者が引っかかる箇所が増えてくる。  また、「障害者」「高齢者」「健常者」などの関係を理解させたり、誰が「壁を取り去るのか」「誰が商品を工夫するのか」という発問をおいておくことで、後半の「商品開発者」と「利用者」「消費者」の関係への布石ともなる。    

さらに、下段にある本来の定義「バリアの解放」や「みんながハッピーになれる」なども結びつけていけば、理解が深まるだろう。

主張に向けて並ぶ三つの例示

 最後の主張を本文と関係づけて理解させたいと願うと、いくつかの要素をきちんと押さえておく必要がある。  

 ① 三つの例示の内容と意図
 ② 商品や施設を巡る立場の違い。(「消費者」「開発者」など)
 ③ 「お互いに声をかけ合うこと」に至るルートを明確にしておきたい。  

障害者の立場から展開される、様々な「ユニバーサルデザイン」と呼ばれるものの不備の指摘は、ややもするとこういった試み自体の不備を暴露し、批判的な意見に展開しがちなのだが、そこがこの文章のおもしろいところで、二つ目の例示から、健常者と障害者の共通性を見いだし、「発想」として位置づけられる。  さらに三つ目の例示において、「ぶつかる」という現象に目を向け、双方の心の持ちように展開していくラインが存在している。
 結論に挙げられている、「美しいカタカナことばから美しい手応えのある社会哲学へと変身させる」鍵として「お互い様」を持ってくる、その論理構造や因果関係を読みとらせたいなあ、と思うと三つの例をきちんと押さえておく必要がある。
 「社会哲学」なんて難しい言葉が出てきてはいるけれども、書き手の主張は具体的で簡潔なポイントなので中学生にも十分に理解できるように思う。むしろあえてこういった難しい言葉で表現しようとする書き手の意図あたりも考えさせたい。