教材について

 典型的な課題解決型の説明文教材である。  「海には水が不足している」という出だしからして学習者のすでに持っている知識に揺さぶりをかける。そういった環境の中で一見水には苦労していそうにないクジラの水分摂取の工夫が説明されていく。  二つの仮説を挙げながら、それを否定していく形で説明が進み、最終的には、クジラは水分をできるだけ失わないようにしていると結ぶ。  単純に読み物として読んでも、学習者には新しい発見があるが、経験則ではなく、科学的なものの捉え方と結びつけて読みとらせてみたい。  また、教材に付けられている写真やグラフなど非連続テキストを文章と関係づけて理解を広げたり、深めたりする学習も必要となってくるだろう。

出発の課題として

  出来るだけ多くの学習者に出発点としての課題を持たせようとすると、第一段落から第二段落の部分でどういう課題を見つけださせるか、もしくはどうまとめるかという点が重要である。  膨大な水によって作られている海はクジラにとって砂漠以上に厳しい水分環境であることを前提にして、クジラは一体どのようにしてそういった厳しい環境の中で適応しているのかという点に課題を見いだしたい。  環境に適応するという点に着目するのは、次の段落以降の説明において、環境に適応するための体のつくりが話題になっているからでもある。  また、予備学習として、この教材では触れられていない「クジラの進化の歴史」などを入れておくともっとダイナミックに授業が展開できる。

効果的な比較

 この教材の表現上の特徴としてまず第一に考えられるのが効果的な比較によって読み手の理解を促そうとしている点である。第三段落以降の第一点目の仮説に対する説明においては、顕在化した形でも、潜在化した形でも「陸に住むほ乳類」とクジラの比較が行われている。これは学習者にプリントやノートにまとめさせる際の観点として使えるし、発問を作成する際の観点としても使える。  つまり、仮説1の説明は、陸上に住むほ乳類と海に住むほ乳類と、基本的には体のつくりは同じなのだが、より厳しい環境に住むクジラが環境に適応するために備えている体の特徴を明らかにする点に終始している。ゆえに、基本的には作りの似た陸上のほ乳類と比較することで微細なクジラの特徴を際だたせようとする筆者の意図が見えてくる。  こうした、微細な特徴を表現するために近似するものと比較していく方法を学ばせることは、今後の学習者の表現にも深まりを見せるきっかけとなるだろう。

体のつくりから働きへ

仮説1が体のつくりに焦点化した説明になっているのに対して、仮説2では器官の働き方の違いに焦点が移っている。呼吸・排泄・発汗などがそれに当たるわけだが、そういった働きの仕組みを理解しようとすると、どうしても、水分と塩分の関係に目を移さなければならない。塩分濃度の話は冒頭から扱われているものだが、学習者は結構読み落とす。塩分濃度については、体内の浸透圧など理科的な知識が理解するために必要になるため、教師がその点をサポートしていく必要がある。 あくまで文章で行こうとするならば、第二段落の水分のパーセンテージの話を広げていくしかないのであるがやや広げ方に難しさがあるように思う。でも基本的に海の水が水分としてクジラの役に立たない理由も塩分濃度の問題なので、どこかでこの点をじっくりと扱っておかないと学習者の理解が深まっていかない。

写真やグラフと関係づける

最近はこういったことをいうと、ああpisa型か、となるわけだが、その通りである。別にこの時期の編集がpisa型の読解力を意識したかどうかは定かではないが、学習者にある種の読解力として非連続テキストと連続テキストを関係づけて理解する方法を身につけさせたいし、プレゼンテーションなどを作成する力の基礎として、非連続テキストを効果的に利用して説明することが出来るようになってほしいと思う。 さて、両者の関係を三つに類型化すると以下のようになる。  


①グラフや写真と文章が同じ事を説明しているもの。  
②グラフや写真と文章が互いに違うことを説明し補い合っているもの。  
③グラフや写真が文章で表現されている内容をまとめているもの。
 

おそらくこの三つの方それぞれに理解の仕方が違う。教材分析の段階でこういった点に目を向けておくことが重要だ。    
①に関しては、「相乗効果」なるものがねらいだから、グラフや写真がある場合と無い場合の違いについて考えさせ、写真やグラフをわざわざ筆者が使用している意図に迫る学習を構想する。  
②に関しては「読み重ねる」事が目的だから、文章から分かることと写真やグラフから分かることとを分けてまとめさせ、最終的には両者の内容を関係づける学習を構想する必要がある。
 ③に関しては、段落や段落相互の内容を文章レベルで理解させ、それを視覚的な表現にまとめさせる学習を構想し、実際に付けられているグラフや写真と比べる学習を構想する必要がある。  
いずれにせよこういった非連続テキストと呼ばれるものが単純に視覚的な効果をねらっているだけではないことを教師は意識するべきであろう。