教材について

  読書教材として提示されているが、本文の読解を行っても面白い教材だ。まず、見出しが入っている。見出しのある文章とは何であろうかというと、学習者に書かせるレポートなどは見出しが入っているといいなあと思うものも多い。しかし見出しを付けるには、カードなどで情報をまとめて分類しておかなければならないし、見出し相互の一貫性や相関性を考えなければならない。学習のターゲットとして、学習者にレポートを書かせるのであれば、この「見出し」を付けられるようにしっかり指導する。
 また、この教材は事実の中から意味や価値を見出す内容となっているところが内容面での魅力である。歴史的な事例や文化的な事例を取り上げて文章を書く場合、この意味や価値を自分で見出せない学習者が多い。だから調べ学習をまとめさせると、一番大切なところ、つまり意味や価値を自分なりに見出すという事ができずに引用してしまう。これを何とかするために使える教材だと思う。

カード学習か文章構成か

 意見文や調べ学習をまとめた文章を書かせる場合に、意味段落のようなまとまりのはっきりした文章を書かせようとすると、調べ学習の段階からカードを使わせる。カードには当然見出しを付けさせているので、見出しを付けることは比較的容易にできるようにも思う。しかしこういった学習を実際に行ってみると、導入とまとめが書けない。つまり、カードを使わせると展開部分での中味のまとまりは見出せるようになっても、導入やまとめなど文章構成に必要なまとまりを形作ることができない。
 そこで、この教材の導入部分での見出しを見てみると、内容のまとまりと言うよりは導入として読み手を引きつけるような見出しになっている。 またまとめの見出しも同様で文章全体の価値や意味を表す見出しが付けられている。この点を読解によって学習すれば効果があると思う。

価値や意味を発見する

 この教材は五重塔の構造を説明しながらも、それがどういった意味を持っているのかを述べた文章になっている。ここに着目して学習を組織するとするならば、やはり最後の見出し「現代によみがえる技術」を出発点にした逆向きの展開を考える。耐震強度の問題が期せずして社会問題となる前に選ばれた教材だが、こうして現代の社会問題として扱われるようになると改めて「現代によみがえる技術」という言葉の重みが増してくる。
 誰しもが知っている五重塔、ちょっと本を読めばその五重塔の耐震構造などは書いてある。だからこそ、この教材のメインは、そういった日常的に触れることのできる情報に対して、自分なりの意味や価値を見出すことにある。当然この教材の筆者は建築学者であるため、建築学者としての意味や価値の見出し方をしているが、素人である学習者も自分なりの意味や価値を見出せる話題はあるはずである。 仮に調べ学習に発展させるのであれば、そういった点を重視して調べた内容をまとめさせたい。

多様な位置づけとキーワードの推移

 筆者は五重塔の構造を文章の展開に即していくつかの概念として提示している。

 ①「免震構造」→②重箱構造」→③「剛構造」・・「柔構造」

  この三つの概念の推移は話題や論の展開に即して意図的にスライドされているもので、キーワードの推移が論の展開を支えることを理解する学習には適している。基本的に対象となる構造は同じなので分かりやすい。キーワードに着目し、その推移から論の展開を読み取ることができるようになるための基礎となる記述である。