教材について
チンパンジーの「種割り」の伝承を「文化」の伝承の典型的な形として捉え、人間の「文化」伝承を暗に想起させるような教材の内容になっている。 グループの食生活の分布状況を説明する前半部分と、他のグループから来たであろうヨが若い猿たちに種割りを伝承するプロセスを書いた後半部分の二つに分かれる。 特に前半部分は四つのグループの分布状況や食生活を図表とともに説明しており、図表と文章とを重ね合わせて理解する学習場面を構想しやすい形になっている。
また、後半部分は時系列に沿った説明に加え、因果関係を推論によって導き出しながら、猿が文化を伝えるプロセスを説明していて、読解学習を構想する形になっている。
この教材の問題は、あまりにも「人間」というものが後ろに置かれてすぎている点にある。チンパンジーの文化伝承についての説明文に終始しているのならばそれはそれで構わないのだが、筆者の研究動機も人間の進化の解明にあるし、最終段落にも人間との共通性を基盤にまとめられているため、中途半端に人間のことを出すわけにも行かず、かといって人間についてあまり書き込まれてもいないため、どこでそのように情報を入れていくかという点が難しいと感じられる点であろう。