教材について

 この作品の題名でもある「めぐる輪」という概念の重さは学習後にじっくりと考えさせたいポイントである。  四つの例の内、初めのアリゾナの例は、「完全なめぐる輪」の再現であり、それ故に、「自分の行為はすぐに結果となって自分自身へとはね返ってくる」とあるように、自分たちが環境に対して与える影響をリアルに実感できる例になっている。これに対して、②及び③の例は、ごみを肥料にするという事に注目した「不完全なめぐる輪」である。  最後の東京都北区の例は、「給食→肥料→野菜→給食」という完全なめぐる輪である。大規模な都会で実現したこの完全なめぐる輪と最初のミニ地球の例で扱われている「めぐる輪」とを比べてみると、実際の人々の生活の中に完成されたものである以上に、多くの人や地方が関わり、それぞれの意識の高さが支えとなって、めぐる輪が実現されている。こういったことを考えさせたい。

論理の中心としての例示

  この作品の中には四つの例示がある。その例示がなされている意図を読み解くことが読解学習の中心となる。  

  1. アリゾナのミニ地球の例  
  2. 宮崎県綾町のリサイクル運動の例  
  3. 山形県長井市のレインボープランの例  
  4. 東京都北区のごみのリサイクルの例  

 この四つの例は、それぞれが意味をなしており、筆者の主張を支えている。

最初の例でどう始めるか?

 複数の例によって構成されているこの作品を学習するに当たり、やっぱり「例示の効果」を押さえる方法を学ばせておきたい。そうなると、「例示の意図」を読み解かせなくてはならない。「他の例ではなくなぜこの例を挙げているのか」というアプローチをすることで、読みが深まることを実感させておきたい。  

 そこで、このアリゾナのミニ地球の例がなぜ挙げられているのかという点について考えていく。わたしたち教師が読んでアリゾナのみに地球の例の意図が見えてくるのは、一般的なリサイクル運動や実験というものの概念が何となく理解されているからであって、そうでない学習者に直接意図を聞いてもよく分からない。 しかし、基本的に例示の意図を読む場合には、挙げられている例の特徴を一般的なものの中で位置づけて考えていくことが必要ではある。これは中学校説明文・論説文の一番の弱点で、経験や知識の少ないというか、話題に対する一般的な認識ができない中学生にとって、書き手の意図を読み解く作業を求めると大概できない。教師は枠組みを持っているので何でできないのかと思うが、ここに挙げた理由によってできないのであって主流となる方法は採れないということをよく自覚しておく必要がある。  

 では、どうやって「例示の意図」に迫っていくのか。「比較」である。本文中の他に挙げられている例との比較が唯一、ミニ地球の例の特徴を明らかにするための手だてかもしれない。そう考えると、再読勝負。初読でプリントを切って、四つの例示の概略をつかませておかなければならない。そのプリントを見比べながら、最初の例のポイントとなる記述に接近させ、その意味+意図を併せて理解させると読みは深まる。 アリゾナのみに地球の例がなぜ例に挙げられているかというと、先にも述べたが、完全なめぐる輪の例なのである。つまり、このアリゾナのミニ地球は完全な閉鎖的循環であるが故に、「自分の行為はすぐに結果となって自分自身へとはねかえってくる。」 ゆえに、「自分たちが環境に対して与える影響をリアルに実感できる例」なのである。この部分をきちんと読みとることで、この例示の意義つけに関する理解が深まる。

○「めぐる輪」の仕組みの理解

○「本当の地球」の中で生きることを学ぶ機会  

どう深まるか、深まった結果どのような理解に至るのかということは、授業者がことばにしてみると良い。

二つの例を比較する ~日本での取り組みを複数例示するのはなぜか?~

 題に示したこの疑問に、授業者は答えられるだろうか。宮崎県綾町の例と山形県長井市の例はなぜ二つ並べて例示されているのだろうか。 一つ目は、規模の違い。  

 7400人ー33000人ー何十万、何百万  

と三つ目の例と並べて連続性を捉えることはできる。しかしこの配列が意味するところは発問にして学習者に聞いてみるとなかなかことばにならない。  

 二つ目は、取り組みの違い  

 ごみを土地に返すー生ゴミの堆肥化(流通というシステム上でのリサイクル)  

で、比較するのだから共通性にも目を向けさせる。  

 共通性   

  1. 人の生活と土地の再生の関係に着目し、土、農業、環境を守る。
  2. 不完全なめぐる輪 部分的なサイクル   

 やっぱり挙げられている例の独自性を読み解く作業が中心になるのか・・・  比較してそれぞれの特徴を捉えると共に、共通性に目を向けさせると、環境破壊回避のためのリサイクルではなく、環境との共存のためのリサイクルであることが明らかになる。

三つ目の例を読み解く~なぜ三つ目の例が必要だったのか~

 例示の順番への着眼から、規模が次第に大きくなってきていることが分かるだろう。問題なのはそれが示している意味をどう読みとるか。  

  1. 規模が大きくなればなるほど、大勢の人の意識が高くなければならず、実現の困難度が増していく。取り組みとして難しいものへと配列されている。  
  2. 規模が大きくなればなるほど、リサイクルの必要性が高くなる。  

 果たしてどちらだろうかということを議論させることも考えてみるが、たぶん学習者は乗ってこないだろうなあ。議論させるならもう少しテーマを広げて、環境保護型リサイクルと環境共存型リサイクルの例を調べ学習で調べさせておいて、情報量をぐっと増やしてからですか。 時間との兼ね合いで検討するかもしれない。 でも大切なのは、前の二つの例とは明らかに異なる意図でこの例示がなされていることを理解させるということ。この例の特殊性としてまず目に付くのは、給食・・・身近さか。しかし、そうではなくて、めぐる輪の完成型としての例であることかな。