教材について

 中学一年生の説明文教材に多く用いられるクジラの話題である。なぜ中学校の説明文教材にクジラを扱ったものが多いのかという点に関しては今ひとつ明確な理由はないのだが、かくいう三省堂の教科書にもクジラを扱った説明文教材がある。比べ読みをする副教材として関係づけて使用するとおもしろい授業が展開できる。

 本教材の特徴は、いわゆる説明文の典型的な文章構成を持っている事だろう。つまり、生活の中の問いを科学的な問いにまで高める始まりから、それに対して仮説を設定し、仮説を科学的に実証することによって当初提示された科学的な問いを解決するという展開である。  

 そういう意味では、典型的な説明文教材の読解の授業を丁寧に行うには適している教材であろう。それ故に、「科学的説明文」というジャンルに帰属する読みの観点や方法を明確に学ばせることを目指したい。

経験的な事実を科学的に解明する

  前半部分に提示されている、船乗りたちの経験に基づくクジラの生態は、経験的事実である。日常生活の中で目にするこういった経験的事実は、「クジラは声帯がない」という科学的事実と関係づけられて問いへと変化する。  

 そういうプロセスをしっかりと抽象的な展開として位置づけながら整理することを学習のねらいとする。中学校の説明文の授業では、「具体的な記述」と「文章の中での役割」や「抽象的な概念」などとの結びつきを視覚的に学習者に提示し、具体的な記述の関係を追いながらも、異なるレベルでの位置づけを同時に行うような読み方を求めたい。

  • 「大昔から・・・」=船乗りの経験に基づく経験的な事実
  • 「クジラに声帯はない」=科学的事実

 の関係は、具体的な記述相互の意味の関係性を追求するよりも、「経験的な事実」と「科学的な事実」との関係を考えさせる視点を与える方が有効な学習である。しかしながら、中学生はイコールで結ばれた後の抽象的な位置づけを一人では読みとれないので、このあたりを発問と板書で視覚的に導いていくことが学習のポイントとなるだろう。

「キーワード」の理解

 本格的に過科学的実証が始まる部分の冒頭に、「手段」というキーワードが出てくる。普通に読みとらせると、「手段」が「超音波」であるということが、録音技術の進歩によって明らかにされました。という理解に至る。これでは後半の著者の考えの理解が浅くなってしまう。  そこで改めて「手段」というキーワードを用いていることの意味に立ち返る。「手段」とは、目的に対する手段であり、クジラの超音波は何のために用いられているのかという問いを内包している。また、「手段」とは最も効果的な方法、もしくは最も適切な方法を選択するものであるから、クジラにとって超音波を使うことがなぜ適切な方法なのかという問いも内包している。  

  • 前者・・・雌や他の雄に自分の存在を知らせるため  
  • 後者・・・暗い海の中でも音はどこまでも通る。

などと後半部分の記述と結びつければ、科学的解明の歌書と著者の考えの記述が結びつけて理解されることになる。

概念の理解

 「コミュニケーション」という言葉の意味は当然辞書的な意味で用いられているわけではない。だから辞書をいくら引かしてもあまり意味はない。かろうじてよりどころにはなるが。  説明文を読む際に、筆者の用いる専門用語の理解は重要である。  その一つは、筆者の専門領域で用いられているその語の意味を知ること+文章中でどのように使われているのかを整理し、筆者の用い方から語の意味を推論するという活動を必要とする。  この教材の場合、「コミュニケーション」とは動物間のコミュニケーションのことを指しており人間の行うコミュニケーションと類似するところもあるが、厳密には異なるものである。それを人間の行うコミュニケーションと相対化して何かを述べようと言うのならば、それはすでに科学的な説明文の域を超えてしまう。