今井和子 童心社 1986
幼児のことばの実態を、収集する必要性は高い。遊びの中で自然に身につけていることばを観察し、その善し悪しを吟味しつつ、効果的な関わりを進めていくことが幼児教育に携わるものには必要だからだ。
本書は、そういう意味では一昔前の子どものことばの実態を捉えたものに映るかもしれない。
改めて本書を読み返してみてつくづく思うことは、ここに捉えられていることばの育ちの実態が、母親を中心とする家族との関係の中で育まれたもの、幼稚園や保育園の友だち、友人との関係の中で育まれていくものを捉えていることに気がつく。
本書が出版されてから、はや20年の月日がたち、幼児の生活も大幅に変わってきている。
私は研究の専門上、どうしても小学校一年生からさかのぼった見方が強いのだが、それでも、明らかにテレビとの関係の中で、子どもたちのことばが育まれていく比率が高まっていることを懸念してしまう。
実体験の伴わないことばの習得が増え、人間関係の中で声をかけられたり、経験を通してそれをことばにして捉えたりする中で育まれていくことばが乏しい子供が増えているように思われてならないのである。
いうまでもなくことばとは、人と人とを結ぶものである。それ故に、人と人との結びつきの中で習得されていくものでもある。それはひいては、自分自身との関係の中で用いられていくことばでもある。
一年生の教室に赴き、子どもたちのことばに「すさみ」を感じてしまうのは、子どもたちの使っていることばが人間関係を背景に持っていないからである。テレビの中の人に向き合うようにして実際の友だちや教師に向き合っていると無機質なことばを自然と発してしまうのだろう。
本書は、この二十年の間に我が国の子どもたちが失ってしまった非常に大切なことばの学びを捉えている。
幼児を取り巻く全ての人がもう一度、こうした関わりの中で彼らと関わり、彼らのことばを育んでいく必要があるように思う。