ヴィゴツキーの発達論

                       中村和夫  東京大学出版会  1998                         

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目次

 序章  文化−歴史的理論の概要と本書の構成
 第一章 初期ヴィゴツキーの意識論の特徴
 第二章 20世紀初頭の心理学の危機に対する分析
 第三章 文化−歴史的理論の形成におけるケーラーの「類人猿の知能研究」の意義
 第四章 言葉(記号)による媒介と子どもの高次心理機能の発達
 第五章 最近接領域の概念について
 第六章 「人間の具体的心理学」の構想について
 第七章 ヴィゴツキー理論は活動理論か?

概要

学習をとらえる考え方として、人から学ぶ場合を想定する考え方と、ものから学ぶ場合を想定する考え方がある。両者はどちらも大切な学びなのであるが、近年人から学ぶ考え方をもう少し教育現場において積極的に導入しようとする試みが多くなされている。
 コミュニケーション能力の育成は欧米などでは、その背後にある推論能力やコラボレーション能力の育成に主眼がおかれているようであるが、我が国では、コミュニケーション能力そのものをことばの力として育成しようとする動きが強いように思われる。
 いうまでもなく、人が言葉を使う背景には高次の心理機能が存在している。平たく言えばまず、伝達する内容を作り出すために人は頭を使わなければならない。単に誰かに何かを伝えようと言うことではない。さらに、相手がそれを聞いてどのように思うかやどのような変化をもたらそうとして自分は発言しようとするのかと言った推論能力は必要である。加えて、効果的に伝達するための方法や微細な感情までも伝達しようとすると、社会的に共有されている言葉の使い方を獲得していなければならない。
 こうして考えてみると、コミュニケーション能力のような個人の言葉の使い方一つにしても、それを習得するためには具体的に他者と関わる経験と社会的に共有されている方法や知識に目を向けていかなければならない。
 言い換えるならば、「コミュニケーション能力」は書籍などを基にして閉鎖的な環境で一人で学ぶことが出来ない能力なのである。こう考えると、社会的文化的な要素をはじめとする多くのことを我々は人から学ばなければならないのである。
 人との関わりの中で子どもが様々なことを習得していくプロセスを心理学的に分析していけば、学ぶのが不得意な子どもであってもその問題を解消する可能性は生まれてくる。そう考えるとヴィゴツキーの仕事の重要性が見えてくるのではないか。
 ヴィゴツキーの仕事が近年改めて見直され、新しい教育学の中の重要な要素として抽出されることは決して古典回帰ではないと思っている。

 

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